比例代表選出議員は辞職すべきか?

比例代表で選出された議員が、議員辞職することなく他党へ移ることは許されるのか、という問題が再び浮上している。


衆議院選挙には大きく分けて小選挙区比例代表がある。簡単に言うと、前者が候補者個人に対する投票なのに対し、後者は政党に対する投票である。


比例代表で選出された議員というのは、その議員本人の力というよりは、政党の力によって議員になることができた。なのに、議員辞職せずに他党へ移るのは、党に対する恩知らずだし、党に票を投じてくれた人々に対する背信行為だ、ということなのだろう。


だが、果たして本当にそうなのだろうか。


18世紀イギリスに、エドマンド・バークという思想家がいた。後にフランス革命に反対し、保守主義の祖として仰がれる人物である。その彼が主張したことに、国会議員は「全国民の代表」でなければならないということがある。


「全国民の代表」とはどういうことか。「増税」を例に説明してみよう。今も昔も「増税」は不人気な政策である。各選挙区で「増税に対して賛成か反対か」という調査をすれば、多くの人が反対するだろう。


こうした場合、各議員は自分の選挙民の意思にどこまで従うべきなのだろうか。「増税反対」という“民意”に絶対服従を誓うならば、その議員は国会において増税法案に何が何でも反対しなければならない。


バークが批判の鉾先を向けたのは、まさにそうした主張に対してであった。議員は自分が選出された選挙区のことだけを考えていれば良いわけではない。議員は「国益」(the national interest)を第一に考えなければならないのだ。だから、たとえ、どんなに「増税反対」が“民意”として示されていようと、議員個人が自らの「理性」と「判断力」によって、「増税をすることが国益にかなう」と結論したならば、議場で堂々と賛成票を投じるべきだ。これがバークの主張した「全国民の代表」という考えである。


こうしたバークの考えを、比例代表で選出された議員についても考えることはできないだろうか。


彼らが政党の力によって当選したことは間違いない。だが、彼らは議員バッジを胸につけた瞬間から、所属する政党に票を投じた人々のみならず、全国民に対して服従する。彼らが服従するのは「国益」に対してであって、「党益」などではない。


したがって、比例代表で選出された議員であっても、それが本当に国益を考えての行動であるならば、誰も止めることはできないし、止めるべきではない。もし、そうした行動が国益を損ねるものであったとしても、それは公正な選挙において、主権者たる国民が裁くべきことである。


かつて、ルソーは、イギリスの代表民主制を批判し、「彼らが自由なのは、議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれるやいなや、イギリス人民は奴隷となり、無に帰してしまう」と述べた。だが、彼はその後にこう続けているのである。「その自由な短い期間に、彼らが自由をどう使っているかをみれば、自由を失うのも当然である」と。今、我々が自由をどう使っているかが試されているといえよう。